5/9 憲法審査会(発言)
質問要旨
1.選挙困難事態について
2.憲法が保障する参政権との関係
議事録
立憲民主党の本庄知史です。先週の本審査会において、私の発言について何人かの委員から言及がありましたので、本日はその点を中心に、改めて私の意見を申し述べます。
(選挙困難事態について)
まず、いわゆる選挙困難事態と国会議員の任期延長に関連して、私が過去の事例として、東日本大震災、阪神淡路大震災、関東大震災を挙げたことに対し、有志の会・北神委員から「単純に、過去に生じた事実だと狭く捉えるべきではなく、科学的検証などにより、将来に生じ得る事実をも含めるべき」とのご意見がありました。
もちろん、私は過去に生じた事実だけで判断しているわけではありません。過去に生じた事実を踏まえ、将来起き得る首都直下型地震や南海トラフ地震も想定して議論、検討することは、政府はもちろん、国会としても当然のことです。我々は、選挙困難事態は論理上、観念上はあり得るとも述べています。
ただ、「全国の広範な地域」で「相当程度長期間」、選挙が実施困難な事態ということが現実問題としてあり得るのか、あり得るとして、それはどれぐらいの可能性なのか、未だ説得力ある「科学的検証」は示されていません。
先ほど自民党・中谷幹事より、東北ブロックで国政選挙ができなければ、「全国で広範な地域」で選挙実施困難に該当する旨ご発言がありましたが、私はそうは考えません。これは判断の問題であり、同様の曖昧さは、時の政権にも当てはまります。
その上で、私は選挙困難事態は「立法事実の認識が一致していない」と申し上げました。あえて「立法事実がない」とは申し上げておりません。その趣旨は、同じ過去の事例であっても、選挙困難事態か否かで見解を異にしている、ということです。
例えば、自民党・中谷幹事は、先般の能登半島地震をしばしば挙げておられますが、能登半島が「全国の広範な地域」なのでしょうか。私は、被災地域の繰延投票等で対応可能であると考えます。
また、中谷幹事からは、「福島で原発事故が起こり、帰還困難で1年も2年も帰れないような地域の選挙は一体どうしたらいいのか」とのご発言もありました。しかし、こういった場合には、繰延投票、不在者投票、あるいは避難先での投票など、議員任期の延長によらない対応策はいくらでも考えられるのではないでしょうか。
公明党・河西委員からは、「東日本大震災では、岩手・宮城・福島の被災3県に加えて、茨城県水戸市の市長選、市議選が延期されている」とのご指摘がありました。先ほど中谷幹事からも同様のご発言がありました。しかし、水戸市長選は33日、市議選は29日の延期です。仮に国政選挙で同様の状況があっても、繰延投票等で十分対応できる範囲です。
中谷幹事からは、「自衛隊の出動の国会承認においても、一刻を争うときに、国会が、衆議院が開かれないというのは、まさにこの国の緊急事態における対応ができない一つの例だ」とのご発言もありました。しかし、自衛隊ご出身の中谷筆頭幹事はよくご存じかと思いますが、自衛隊の出動は国会の事後承認でも認められており、不都合は生じません。
このように、先週の各委員のご発言だけ取り上げても、私には議員任期延長の必要性が示されているとは思えません。そのことを、私は控えめに、「立法事実の認識が一致していない」と申し上げています。
(憲法が保障する参政権との関係)
そもそも、日本国憲法の三大原則の一つである国民主権に由来し、憲法第15条によって保障される国民の参政権、選挙権は、最も重要な基本的人権であり、議会制民主主義の根幹を成すものです。国会議員の任期延長とは、すなわち、これを制限することに他なりません。特に、被災地以外の有権者にとっては、重大な権利侵害です。
公共の福祉や安全保障のために、基本的人権や個人の権利が制限されることは当然あり得ます。しかし、それは他の取り得る手段を追求した上で、両者を比較衡量した結果導かれるものです。
しかし、現在の議員任期延長の議論は、その必要性ばかりが強調され、選挙権の制限や議会制民主主義の形骸化、ひいては国民主権の侵害といったデメリットやリスクについて、戦前や諸外国の経験も踏まえた十分な考察や議論がなされているとは言えません。
また、議員任期の延長、すなわち憲法15条が保障する国民の参政権、選挙権を制限する前に、災害に強い選挙体制の整備など他に取り得る手段について、十分な議論や検討も行われなければなりませんが、現在の政府や国会でそういった取り組みがなされているとは言えません。
以上の通り、議員任期の延長に関する現在の議論は、そのデメリットも、代替措置も十分に議論、検討されないまま、もしかしてあるかもしれない極めて小さな可能性に殊更に焦点を当てて、その打開策を議会制民主主義にとって最後の手段とも言える議員任期の延長に安易に委ねています。条文案に基づく議論の段階に達してるとはとても言えず、さらに深掘りした議論を丁寧に重ねるべきであると考えます。以上で私の発言を終わります。ありがとうございました。