11/16 憲法審査会(発言)
質問要旨
憲法への自衛隊明記について
1.憲法を順守しない国会議員
2.憲法と自衛隊についての基本認識
3.憲法に自衛隊を明記する必要性
4.自衛隊を明記した場合の課題
5.結語
議事録
(憲法を順守しない国会議員)
立憲民主党の本庄さとしです。本日は、憲法への自衛隊明記について申し述べたいと思いますが、その前に、税金の滞納等が発覚し、辞任した神田・前財務副大臣に関連して、一言申し上げます。
言うまでもなく、憲法30条により、国民は納税の義務を負い、99条により、国会議員その他の公務員は、憲法を尊重し、擁護する義務を負っています。国会議員たる者、憲法を順守することは基本中の基本であり、それもままならぬとあっては、憲法改正を発議する資格はありません。
冒頭そのことを指摘した上で、以下、本題に入ります。
(憲法と自衛隊についての基本認識)
主権国家としての固有の自衛権が否定されない以上、その行使を裏付ける必要最小限度の実力組織を保持することは、憲法上認められると解されます。これは、現行憲法制定以来の国会審議や政府答弁によって確立されたものです。我が国は、この解釈の下、専守防衛を基本として、自衛隊を保持・運用してきました。
自衛隊は戦後、我が国の平和と安全に寄与するだけでなく、自然災害等の発生時において、人命救助をはじめ幅広い活動を展開し、国民の生命・財産を保護してきました。自衛隊の役割と必要性は国民に十分理解され、その存在は広く受け入れられるに至っています。
(憲法に自衛隊を明記する必要性)
そういう中で、自民党や維新の会などから、自衛隊を憲法に明記すべきとの提案がなされています。その理由としては、自衛隊違憲論の解消、自衛隊員の誇りを守る、国防規定の欠落などが挙げられています。
しかし、自衛隊違憲論は今や少数説です。例えば、朝日新聞社が2022年3月から4月に行った調査では、78%が自衛隊は憲法違反でないと回答しています。自衛隊を憲法に明記しなければいけないという主張は、むしろ、自衛隊違憲論を殊更にプレイアップすることになりかねません。
また、「自衛隊員の誇りを守る」という改憲理由は、なぜ憲法に自衛隊を明記すると、隊員の誇りを守ることになるのか、なぜ憲法に自衛隊を明記しなければ、隊員の誇りを守れないのか、その因果関係は不明確です。仮に、情緒的な理由であれば、憲法改正には馴染みません。
国防規定の欠落については、必ずしも「国防規定」の意味が定かではありませんが、「憲法を頂点とする法体系」の中で、国防やそのための実力組織をどう位置付けるかは各国様々です。我が国の自衛隊については、すでに自衛隊法、防衛省設置法等で明確に規定され、運用されています。
そもそも、中谷筆頭幹事はじめ自民党の方々は、「国防規定」なるものや自衛隊が憲法に明記されていないことで、我が国の防衛政策や自衛隊の運用に具体的な支障があると、本当にお考えなのでしょうか。もしそうであれば、安倍元総理が「平和安全法制の整備によって切れ目のない対応が可能となった」と述べていたことと矛盾します。
我々は、現行の憲法9条に照らして、集団的自衛権の行使を認める平和安全法制自体に問題があるという立場ですが、自民党がそのような立場にない以上、現在の法制度で十分であるはずです。
もし不十分だということであれば、我が国の防衛政策や自衛隊の運用にとって具体的に何が必要なのか、そして、自民党が掲げる自衛隊明記の憲法改正が実現した場合、いかなる理由で必要な部分を補えるようになるのか。元防衛大臣でもある中谷筆頭幹事に対し、明確なご説明を求めます。
(自衛隊を明記した場合の課題)
他方で、憲法への自衛隊明記、例えば自民党がお示しの「条文イメージ(たたき台素案)」には、以下のような法的課題があることを、改めて簡潔に指摘しておきます。
まず、「自衛隊」という固有名詞を憲法に明記すれば、自衛隊が「憲法機関」となり、そうではない防衛省その他の行政機関とのバランスを大きく失することになります。
また、自衛隊の任務・権限を規定するに当たり、自民党案は「必要な自衛の措置をとることを妨げず」と規定していますが、「必要最小限度」の文言はありません。これは、「必要であれば」フルスペックの集団的自衛権の行使も可能となり得るものです。
さらに、この「妨げず」の条文が9条の2として、現在の9条の後ろに置かれることになると、当該規定は9条の例外規定と解され、9条1項、2項が空文化するおそれがあります。これは、憲法の平和主義そのものが空文化することに他なりません。
(結語)
以上、申し述べたとおり、憲法への自衛隊明記は、その必要性に乏しい一方、明記することによる課題は多いと言えます。また、自衛隊明記自体が自己目的化してしまっては本末転倒です。現時点において、自衛隊明記のために憲法改正の発議をすることには、憲法論としても政策論としても合理性がないということを申し上げ、私の発言と致します。